このページの要点
- 見守りの契約は多くが準委任。約束するのは、決めた方法と頻度で確認する事務であり、異変の発見ではない。
- 訪問・電話・機器など方式ごとに、できることとできないことを書き分け、応答なしの判断基準と連絡の順序を決める。
- 鍵を預かるなら、目的・入室の条件・保管・記録・返却を条項にする。預からないなら、入室できないことを明記する。
- 連絡先と情報の共有範囲は同意で決め、免責は「一切責任を負わない」でなく、できないことの範囲で書く。
結論:約束するのは「決めた方法と頻度で確認すること」であり、異変の発見ではない
「見守り」という言葉は、読む人によって意味が違います。離れて暮らす家族は「何かあれば気づいて知らせてくれる」と受け取り、事業者は「決まった曜日に電話で声を聞く」ことを想定している、というずれが、見守りの契約でもっとも多い食い違いの元になります。契約書に書くべきは、事業者が何をいつどの方法で行い、その結果をどう伝えるのかという事務の中身です。異変を必ず見つけることまでを約束する契約は、事業者が負いきれない責任を負うことになり、約束していない側の利用者には、守られているという誤った安心を与えます。
見守りは、前のページで整理した契約の重さの階段(契約の全体像)の一番下の段にあたります。お金の預かりも、保証も伴わない分、書くことは少なく見えます。しかし実際には、方法と頻度、異変があったときの連絡、鍵、機器が集めるデータ、できないことの五つが、後のトラブルの多くを占めます。
- 見守りの契約は、民法上は多くが準委任。事業者は、決めた方法と頻度で確認する事務を、善良な管理者の注意をもって行う義務を負う(民法656条、643条、644条)。結果の保証ではない。
- 方式(訪問・電話・メッセージ・機器)によって、確認できることとできないことが違う。方式ごとに「できること」「できないこと」を書き分ける。
- 異変や応答なしのときの連絡の順序、連絡してよい相手と情報の範囲を、契約の時点で決めておく。
- 鍵を預かるなら、目的・入室できる場面・保管・記録・返却を条項にする。預からないなら、入室できないことを明記する。
- 機器の映像・音声・生活リズムの情報は、利用目的を特定し、家族への共有範囲を同意で決める。
- 免責は「一切責任を負わない」ではなく、できないことの範囲を具体的に書く。消費者契約法8条に注意する。
見守りと、緊急連絡先を受託して駆けつける役割は別のものです。後者は、ガイドラインの表1では身元保証等サービスの一つとされています。この違いは、身元保証サービスの契約書と医療の同意・緊急連絡先・入院時の関わり方のページで整理しています。
方式ごとに、約束できることとできないこと
見守りには、いくつもの方式があります。方式が変われば、確認できる事柄も、確認できない事柄も変わります。契約書の冒頭で「見守り」とひとまとめに書くと、利用者は最も手厚い方式を想像します。方式ごとに表にして、事業者が実際にできる範囲だけを約束するのが基本です。
見守りの方式別:確認できること・できないこと・契約書に書くこと
| 方式 | 確認できること | 確認できないこと | 契約書に書くこと |
|---|---|---|---|
| 訪問(定期の声かけ) | 在宅かどうか、顔色や話し方、室内の様子の変化 | 訪問と訪問の間に起きたこと。夜間や休日の様子 | 訪問の曜日・時間帯・所要時間の目安。不在のときの扱い。訪問記録の作成と報告の方法 |
| 電話・メッセージ | 応答の有無、声の調子、短い会話の内容 | 応答があっても体調の悪化に気づけない場合。応答がない理由(外出・入浴・就寝) | 連絡する時間帯と回数。応答がないと判断する基準(何回・何分)と、その次の手順 |
| 利用者が操作するボタン・アプリ | 利用者が自分で発信した場合の安否 | 操作ができない状態になったとき | 一定時間操作がないときの通知の基準。操作をしないことが異変の確認になるのか、ならないのか |
| センサー・カメラ・家電の利用状況 | 動きの有無、機器の利用の有無、在宅か不在かの傾向 | 機器が検知できない事象。電池切れ、通信障害、誤作動、機器の設置場所外での出来事 | 検知する事象の範囲、通知先、故障時の扱い、機器の貸与・費用・返却、収集するデータ |
| 複数方式の併用 | 方式ごとの組み合わせによる確認 | 併用しても、全時間の把握にはならない | 主たる方式と補助の方式。どの方式で異変を判断するのかの優先順位 |
契約の性質を確認しておきます。見守りは、安否の確認という事実行為を委託する準委任です。受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法656条、643条、644条)。この義務は、約束した方法と頻度で確認を行い、異変の兆候に気づいたら定めた手順で連絡する、という事務の遂行に向けられています。異変を結果として発見できたかどうかを直接に問う義務ではありません。契約書に方式と頻度を具体的に書くほど、事業者が何をすればその義務を果たしたことになるのかが明確になります。
書き方で気をつけたい言葉があります。「必ず」「24時間」「常に」「何かあればすぐに」といった表現です。契約書の本文だけでなく、申込みの前の説明、ホームページ、チラシにも同じことが当てはまります。消費者契約法は、事業者が勧誘をするに際し、重要事項について事実と異なることを告げて消費者が誤認し、契約を結んだときは、消費者が取り消すことができると定めています(同法4条1項1号)。「異変があればすぐに駆けつけます」と説明しながら、実際には夜間の駆けつけ体制がない、という状況は、この問題に結び付きます。
確認の問いと理由見守りの契約書を作る前に自分に聞く問い
確認の方法は何か。訪問、電話、機器のうち、どれを主とするのか。
方式によって、約束できる内容と、利用者が期待する内容がずれやすい。主たる方式を決めて、書き分ける。
確認の頻度と時間帯はどうか。祝日、年末年始、悪天候のときはどうするか。
決めていない時間帯の出来事は、契約の外になる。休止の日は事前に示す。
応答がないと判断するのは、どの時点か。
一度の不在で通報すると過剰になり、いつまでも待つと遅れる。基準を数字で決める(回数や時間は「○回」「○分」のように契約ごとに定める)。
異変を見つけたとき、事業者は連絡までをするのか、駆けつけるのか。
駆けつけまでを約束するなら、夜間・休日の体制と費用を説明しなければならない。連絡までなら、その旨を明記する。
利用者が入院・旅行・不在になるときは、事前に知らせてもらう決めがあるか。
知らされていない不在を異変として扱うのか、見守りの休止として扱うのかを決める。
異変・応答なしのときの流れを、契約の時点で決める
見守りの契約でもっとも重要なのは、異変に気づいたあとの流れです。気づいたけれど、誰に何を知らせてよいのか、入ってよいのかが決まっていないと、現場の担当者が一人で判断を迫られます。ガイドラインも、サービスの提供の管理の項目で、医療や介護を必要とするなど、利用者の生活に大きな影響が生じる変化があったときに、利用者や関係機関から事業者に連絡が入るよう、関係者と連絡体制を取っておくことを求めています。
応答なしから入室までの手順の例(軽い対応から重い対応へ)
- 別の方法で確かめ直す電話に出なければメッセージ、それでも応答がなければ訪問、というように方式を替えて、定めた時間の範囲で確認する。
- 利用者が指定した連絡先に連絡する家族、後見人等、利用者が同意した連絡先に連絡する。状況と、連絡を受けた人にお願いしたいことを伝える。
- 利用者が同意した関係者に連絡する担当のケアマネジャー、かかりつけ医、管理会社など、あらかじめ連絡してよいとされた先に、必要な範囲の情報を伝える。
- 救急や警察への通報生命や身体に関わるおそれがあると判断したときに通報する。通報の判断をする人と、判断の基準を、事業者の中で決めておく。
- 入室契約で入室を認めた範囲に限り、定めた手順で入る。通報先や関係者に立ち会ってもらうなど、記録が残る形にする。
手順を設けても、現場では順序どおりに進まないことがあります。生命に関わる状況では、通報を優先する旨も、手順書に書いておきます。
手順を条文にすると、次のような形になります。時間や回数は契約ごとに定めるべき事項なので、例では「○」で示します。
書き方の例異変時の対応
- 事業者は、見守りの過程で、利用者に応答がない、または異変のおそれがあると認めるときは、別表に定める順序に従い、確認及び連絡を行う。
- 事業者は、前項の確認をしても利用者の安否が確認できず、利用者の生命又は身体に危険が及んでいるおそれがあると判断するときは、救急、警察その他必要な機関に通報することができる。
- 事業者は、前二項の対応の内容と結果を、○日以内に、利用者及び利用者が指定した連絡先に報告する。
- 事業者が行う見守りは、緊急通報、医療、看護又は介護に代わるものではない。事業者は、救急搬送、診察、治療その他の医療に関する判断を行わない。
第2項は、通報を「することができる」と書き、通報しなかったことを義務違反とされないよう、判断の基準を別表に置くのが一般的です。第4項の考え方は、医療や介護の判断を事業者が行わない、という線引きにつながります。
見守りの契約に緊急連絡先の受託を加えるかどうかで、事業者の役割は大きく変わります。ガイドラインは、緊急連絡先の受託をする場合、緊急時に対応できる事項(土日・休日の対応体制等)とその費用を丁寧に説明することが重要だとしています。夜間や休日に駆けつけるのか、連絡の取次ぎにとどまるのか、いつ病院や施設に着くのかは、利用者の期待とずれやすい部分です。見守りだけを提供する契約では、緊急連絡先を受託しないことと、受託する場合は別の契約や別の条項になることを明記します。
鍵の預かり:目的・入室の条件・保管・返却
見守りで鍵を預かるのは、異変のときに入室できるようにするためです。ただ、鍵の預かりは、見守りの契約の中でももっとも責任の重い付随的な約束です。利用者の住居に入る権限は、鍵を持っていることから当然に生じるのではなく、利用者との契約(同意)に基づいて生じます。鍵を預かる場合は、入室できる場面と手順を、見守りの条項とは別の条項として明記します。
鍵を預かる行為は、物の保管を委託する契約(寄託、民法657条)の性質を持ちます。保管の注意の程度は、無報酬の受寄者が自己の財産に対するのと同一の注意(同法659条)にとどまるのに対し、有償の寄託では、返還するまで善良な管理者の注意をもって保存する義務(同法400条の考え方)を負うとされます。見守りの報酬の中に鍵の保管も含まれると解されるなら、善良な管理者の注意を前提に、保管の体制を整えるべきです。
書き方の例(一般的な例) 鍵の取扱いを定める条項の対比
預かりの目的
理由目的が広いと、事業者の判断で入室できるように読まれ、利用者と家族の信頼を損なうため。
保管と複製
理由「善良な管理者の注意」だけでは、実際に何をすればよいかが分からない。具体的な体制が、注意義務を果たしたことの裏付けになるため。
紛失・盗難
理由責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項1号により無効とされる。具体的な対応を書くほうが、利用者にも事業者にも明確になる。
預かり終了
理由契約終了後も鍵が事業者の手元に残る状態を防ぐ。死亡の場合の扱いは、死後事務と接続する(死後事務の履行)。
入室したときは、記録を残します。入室の日時、入室した者、立ち会った者、入室の理由、確認した内容、退出の日時、鍵の返却を、一件ごとに書き、利用者と利用者が指定した連絡先に報告します。入室したときの物品の取扱いにも、決まりを置いておきます。貴重品や書類に触れないこと、撮影の可否、持ち出さないことなどです。
鍵を預からない選択肢もあります。その場合は、事業者が入室できないこと、異変のときは、鍵を持つ管理会社、家族、緊急連絡先に連絡して対応を委ねることを、契約書と説明書に書いておきます。賃貸住宅では、賃貸借契約や管理会社の運用により、鍵の複製や第三者への預けが制約されていることがあるため、あらかじめ確認します。
連絡してよい相手と、情報の範囲
異変のときに誰に何を伝えるかは、個人情報の取扱いの問題でもあります。見守りで事業者が知る情報は、住所や連絡先だけでなく、在宅か不在か、体調、服薬、通院などに及びます。個人情報保護法は、個人データを第三者に提供するときは、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ることを求めています(同法27条1項)。例外として、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときが認められています(同項2号)。
この例外は、使える場面が限られます。緊急かどうかの判断を現場の担当者に委ねることになりますし、同意を得ることが困難だったかどうかは、後から問われます。したがって、異変に備えるなら、例外に頼らず、契約の時点で、連絡してよい相手と、伝えてよい情報の範囲について、本人の同意を得ておくことが基本です。ガイドラインも、入院時や緊急時に連絡を希望する先の有無と連絡の可否を確認しておくこと、利用者の了解が得られるなら、先方に緊急時に事業者から連絡がある旨を伝えておくことを挙げています。
連絡の相手別:伝える情報と条件
| 連絡の相手 | 伝える情報の例 | 条件・注意 |
|---|---|---|
| 利用者が指定した家族・知人 | 応答がないこと、確認の経過、事業者の次の行動 | 指定を書面に残す。指定された人が複数のときは、連絡の順序と、全員に連絡するのかを決める。 |
| 担当のケアマネジャー・かかりつけ医 | 異変の事実、直近の様子、緊急連絡先 | 連絡してよいことの同意を得る。同意の範囲に、健康に関する情報が含まれるかを明確にする。 |
| 管理会社・大家 | 異変のおそれ、入室の協力の依頼 | 住居の管理者に伝える情報を最小限にする。利用者の病状などの要配慮個人情報は、必要がなければ伝えない。 |
| 救急・警察 | 利用者の氏名、住所、状況、持病や服薬など、救命に必要な情報 | 生命・身体の保護のために必要な場合の例外を使う場面。可能なら、契約の同意にも含めておく。 |
| 成年後見人等 | 見守りの経過と記録 | 成年後見人等が選任されているときは、契約内容の相談とあわせ、記録を共有する(判断能力が低下したとき)。 |
同意の取り方も整理しておきます。民法は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を必要としないとしています(民法522条2項)。画面上の同意でも、契約自体は成立します。問題は証拠です。後で「同意していない」と争われたときに、誰が、いつ、どの内容に同意したかを示せるかが、実務上の論点になります。画面での同意を採る場合は、操作した人が本人であることの確認、同意の内容の保存、操作の日時などの記録を残し、あとから書き換えられないようにしておきます。家族が代わりに入力した場合は、本人の同意と言いがたいので、代理であることを記録します。
書き方の例連絡先と情報の提供に関する定め
- 利用者は、事業者が、異変その他の緊急の事情があるとき、別表に記載した連絡先に連絡し、必要な範囲で利用者の氏名、住所、状況、健康状態及び事業者の対応の内容を伝えることに同意する。
- 利用者は、前項の連絡先及び伝える情報の範囲を、事業者に書面で通知して変更することができる。事業者は、定期の面談の際に、連絡先と伝える情報の範囲に変更がないか確認する。
- 事業者は、利用者の健康状態その他の要配慮個人情報を、あらかじめ利用者の同意を得た目的の範囲を超えて取得し、又は第三者に提供しない。ただし、利用者の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、利用者の同意を得ることが困難であるときは、この限りでない。
第3項のただし書は、個人情報保護法27条1項2号の趣旨に沿うものです。例外に頼らず、第1項の同意を先に得ておくのが基本です。
機器・映像・生活リズムの情報の扱い
センサーやカメラ、見守り用のアプリを使うと、事業者は、利用者の生活の細かい情報を継続的に取得します。映像や音声は、住居内の様子を直接に記録します。動きの有無や家電の利用状況は、起床や就寝の時間、外出の頻度といった生活の型を表します。これらの情報の扱いは、契約書の中でも、個人情報の取扱いを定める条項やプライバシーポリシーと一体で考えます。
見守りで取得する情報と、扱いの注意
| 情報の種類 | 例 | 扱いの注意 |
|---|---|---|
| 生活リズムの情報 | 動きの有無、起床・就寝の傾向、外出・在宅、家電の使用状況 | 利用目的を見守りに特定する。広告や他のサービスの営業に使うなら、その目的も明示する。保存期間を定める。 |
| 映像・音声 | カメラの映像、通話の録音 | 撮影の範囲と時間帯、録画の有無、保存期間。同居者や訪問者が映り込むときの扱い。閲覧できる人の限定。 |
| 位置情報 | 携帯端末の位置、外出先 | 取得の目的と頻度。取得を止める操作ができるか。家族に見せるかどうか。 |
| 健康に関する入力 | 体調、服薬、通院、持病 | 病歴などは要配慮個人情報にあたりうる(個人情報保護法2条3項)。取得にはあらかじめ本人の同意が要る(同法20条2項)。入力させない設計も選べる。 |
| 連絡先・利用の記録 | 緊急連絡先、通知の履歴、対応の記録 | 連絡先は第三者の個人情報でもある。連絡を受ける人に、事業者が連絡をする旨を伝えておく。 |
個人情報保護法の規定のうち、見守りでとくに効くのは次の点です。利用目的をできる限り特定すること(17条1項)、特定した目的の範囲を超えて、本人の同意なく取り扱わないこと(18条1項)、契約書などに記載された本人の個人情報を取得するときは、あらかじめ利用目的を明示すること(21条2項)、個人データの安全管理措置(23条)、委託先の監督(25条)です。機器の運営やクラウドの保存を外部の事業者に委ねるときは、委託先の監督が必要です。その事業者が外国にあるときは、外国にある第三者への提供の制限(28条)の確認も要ります。
書き方の例(一般的な例) 利用目的と共有範囲の書き方
利用目的
理由目的をできる限り特定しなければならず(個人情報保護法17条1項)、目的の範囲を超える利用には、あらかじめ本人の同意が要るため(同法18条1項)。
家族への共有
理由家族であっても本人とは別の第三者で、提供には本人の同意が要る(同法27条1項)。家族が契約者を兼ねていると、本人の意向が見えにくくなる。
保存と削除
理由記録を残すことと、不要になった情報を持ち続けないことは、ともに安全管理の一部となる。
機器が故障したとき、電池が切れたとき、通信が途切れたときにも備えます。機器の貸与とする場合は、所有権、設置の費用、故障時の交換、紛失・破損時の負担、契約終了時の回収を定めます。通信の障害で通知が届かなかったことは、事業者の責めに帰すべき事由がなければ、事業者の債務不履行にはなりません。もっとも、定期的に機器が動作しているかを確認する運用があるなら、その確認を契約上の約束に含めるか、含めないかを書き分けます。
できないこと、免責の限界、規約の変更
見守りの契約書には、「できないこと」を書く条項が必要です。ただし、できないことを書いても、責任を全部免除する書き方は許されません。書き方を間違えると、条項が無効とされるだけでなく、事業者が一方的に責任を免れようとしたという印象を与えます。
見守りの契約に含まれない事柄として、一般に書かれるのは、医療行為・看護行為・介護行為、緊急通報や救急搬送そのもの、24時間の常時の監視、契約で定めた方法・頻度・時間帯の外での確認、利用者が事前に連絡せずに不在にしたときの対応などです。これらは、事業者の能力を超える責任を負わないための限定で、免責条項として書くより、サービスの範囲の問題として書くほうが穏当です。
消費者契約法8条は、利用者が消費者であるとき、次の条項を無効としています。債務不履行により生じた損害の賠償責任を全部免除する条項(1項1号)、故意または重大な過失による債務不履行の責任を一部免除する条項(同項2号)、同じく不法行為責任に関する条項(同項3号・4号)です。軽い過失の場合に責任の一部を免除する条項も、重大な過失を除く過失にのみ適用されることを明らかにしていないものは無効とされます(同条3項)。したがって、賠償の上限額を設けるなら、上限が及ぶのは軽過失の場合に限ること、事業者に故意または重大な過失があるときは上限が及ばないことを明記します。
書き方の例(一般的な例) 免責の書き方
見守りの結果
理由確認の義務を果たしていれば責任を問われないことを、具体的な義務の内容と組み合わせて示す。責任の全部免除にならないようにする。
賠償の上限
理由軽過失の場合の一部免除は許されるが、軽過失に限ることを明らかにしていない条項は無効とされる(消費者契約法8条3項)。
機器・通信
理由責めに帰することのできない事由に限ることで、免責の範囲を限定し、あわせて故障時の事業者の行動を約束する。
規約の変更にも触れておきます。見守りのサービスは長く続くので、規約を変更する場面が出てきます。「変更後も利用を続けたときは、変更に同意したものとみなす」と書く例は多く見られますが、消費者契約法10条は、消費者の不作為をもって新たな申込みまたは承諾の意思表示をしたものとみなす条項で、民法1条2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。規約を定型約款として使うなら、変更は民法548条の4が定める要件(相手方の一般の利益に適合するとき、または契約をした目的に反せず、変更の必要性・内容の相当性等に照らして合理的であるとき)と、効力発生時期を定めたうえでの周知を満たす必要があります。
最後に、判断能力が下がったときの条項です。認知症の診断を受けたことだけを理由に、見守りのサービスを停止したり、契約を解除したりする書き方は、問題が大きいものです。消費者契約法8条の3は、消費者が後見開始、保佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を事業者に付与する条項(消費者が事業者に提供する契約を除く)を無効としています。判断能力が低下したときの対応は、判断能力が低下したときで整理しています。
起きがちなこと:見守りの契約でつまずく場面
場面別:起きがちなことと、契約書・説明書での備え
応答がない朝
起きがちなこと電話に出ない利用者に何度か電話をかけたが、その後の手順が決まっておらず、担当者が判断に迷って連絡が遅れた。
契約書・説明書での備え応答なしの判断基準と、連絡の順序を別表にする。通報の判断者を事業者の中で決めておく。
鍵を預かっていない
起きがちなこと家族が、異変があれば事業者が入室してくれると思っていたが、事業者は鍵を預かっていなかった。
契約書・説明書での備え鍵を預からない場合は、入室できないこと、鍵を持つ人に連絡することを、説明書と契約書に書く。
家族がデータを見たがる
起きがちなこと遠方の家族が、見守り機器のデータを日常的に見たいと求めたが、本人はそれを望んでいない。
契約書・説明書での備え共有する相手と範囲を本人の同意で決める。本人の意向と家族の求めが異なる場合の取扱いを書いておく。
機器が止まっていた
起きがちなこと電池切れで機器が動かず、数日間、異常が通知されなかった。
契約書・説明書での備え機器の動作確認の方法、電池や通信の管理の責任、止まったときの通知を、契約で分担する。
申込者と本人が違う
起きがちなこと家族が申し込み、本人はサービスの内容を知らなかった。本人が見守りを嫌がって、訪問を断った。
契約書・説明書での備え契約者と申込者を分け、本人の意思を確認した記録を残す(契約の全体像)。
その他、起きがちなこと
- 「見守り」のつもりで、いつの間にか買い物の立替や通帳の預かりを頼まれ、契約書にない業務が増える。お金の預かりは日常生活支援と財産管理等委託契約で別の契約にする。
- 見守りの記録が担当者の手元のメモにとどまり、事業者として保存されていない。後で報告を求められても、経過を示せない。
- 訪問の時間帯を決めずにいたため、利用者が入浴中・外出中で不在の訪問が重なり、確認の実績が積み上がらない。
- 免責条項が「一切の責任を負わない」と書かれており、消費者契約法8条で無効となる。無効かどうかの問題の前に、利用者の信頼を損なう。
- 応答がなく家族とも連絡が取れない状態が長く続いたとき、契約をどう扱うか(停止するのか、終了するのか、預かり物はどうするのか)が書かれていない。困ったときの確認の順序は契約トラブルとよくある質問にまとめています。
よくあるご質問
見守りで異変に気づけなかった場合、事業者は責任を負いますか。
契約で約束した方法と頻度で確認を行い、定めた手順で連絡したのであれば、異変を結果として見つけられなかったことだけで、債務不履行になるとは限りません。見守りの契約は多くが準委任で、事業者は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法656条、643条、644条)。反対に、約束した確認を怠ったとき、連絡の手順に違反したときは、責任が問われえます。契約書に方法と頻度を具体的に書くのは、この線を明確にするためです。
鍵を預からないと、見守りはできませんか。
できます。鍵の預かりは、異変のときに入室するための付随的な約束で、見守りの成立に必須ではありません。預からない場合は、事業者が入室できないこと、異変のときは鍵を持つ管理会社や家族、緊急連絡先に連絡して対応を委ねることを、契約書と説明書に書きます。預かる場合は、目的・入室の条件・保管・記録・返却を条項にします。
見守りカメラの映像を、家族がいつでも見られるようにしてよいですか。
本人の同意がなければ、避けるべきです。家族であっても、本人とは別の第三者で、個人データを第三者に提供するには、原則としてあらかじめ本人の同意が要ります(個人情報保護法27条1項)。閲覧できる人、映像の範囲、時間帯、閲覧の方法を、本人の同意で決めておきます。同居者や訪問者が映るときの配慮も要ります。
応答がないとき、事業者が入室しても構いませんか。
入室できるのは、利用者との契約で入室を認めた場面に限られます。契約に入室の条件があり、定めた手順を踏んでも安否が確認できず、生命や身体に危険が及んでいるおそれがあると判断される場合に、記録を残して入室する、という形が基本です。生命に関わる状況では、救急や警察への通報が先になります。入室の可否の判断は、担当者一人に委ねず、事業者の中の判断者と手順を決めておきます。
見守りと、緊急連絡先の受託は同じ契約ですか。
役割が違います。見守りは、安否を確認する事務です。緊急連絡先の受託は、入院や緊急時に、医療機関や施設からの連絡を受け、対応する役割で、ガイドラインの表1では身元保証等サービスの一つとされています。夜間・休日の体制、駆けつけの時期、費用の説明が必要になります。見守りだけの契約では、緊急連絡先を受託しないことを明記し、受託するなら別の条項または契約にします。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、サービスの内容や契約の経緯によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務の経験をもとに、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」は法律ではなく、事業者が自主的に確かめるための指針として示されたものです。参考: e-Gov法令検索 / 厚生労働省 / 消費者庁 / 個人情報保護委員会